埋没費用の履歴
埋没費用(まいぼつひよう)ないしサンク・コスト(sunk cost)とは、事業に投下した資金のうち、事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用をいう。
初期投資が大きく、他に転用ができない事業ほど埋没費用は大きくなるため、投資も新規企業の参入も慎重になる。このことにより、埋没費用の多寡が参入障壁の高さを決める要因の1つであることは寡占論の定説となっている。
例1
ある映画のチケットが1800円であるとする。しかし映画が余りにもつまらない時、1800円払った映画を見るべきか、それとも映画館を出て残りの時間を有効に使うかが問題となる。
* 映画を見るのを止めた場合:チケット代1800円は失うが、残った時間を有効に使うことができる。
* 映画を見続けた場合:チケット代1800円に加え、約2時間(上映時間)を失う。
この場合、チケット代1800円が埋没費用となる。この埋没費用は、どの選択肢を選んだとしても回収できない費用である。このとき、時間を浪費してまで、つまらないと感じる映画を見続けることは経済学的に合理的な選択ではない。一方、残りの上映時間を有効に使うことは合理的な選択であるといえる。しかし、多くの人は「1800円がもったいない。元をとならければ。」などと考え、つまらない映画を見ることに時間を浪費してしまいがちである。
例2
ある映画のチケットが1800円であるとする。このチケットを紛失したとき、再度チケットを購入してでも映画を見るべきか否かが問題となる。まず、はじめにチケットを購入したということは、その映画を見ることが1800円の代金に値すると感じていたはずである。ならば、再度チケットを購入してでも映画を見ることが経済学的には合理的な選択となる。既に紛失してしまったチケット代は前述の埋没費用にあたるものだから、二度目の選択においてはこれを判断材料に入れないことが合理的だからである。しかし多くの人は「その映画に3600円分の価値があるか」という基準で考えてしまいがちである。
認識の困難さ
埋没費用の認識は難しい。なぜなら、埋没費用を認めるということは、すなわちそれまでに行った事業や投資などの失敗を認めることに他ならないからである。事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用とはどこまでのことを指すのか、一般的に言うことは困難である。
例えば株式に投資することを考えてみよう。 一株1000円の株を買ったとする。しかし購入した株は800円に下がった。この時に株を売ってしまうと、差額の200円は回収できず、これはすなわち埋没費用となる。しかしここで株を売らず、その後に株価が1200円に上昇すれば、差額として200円の利益が発生し逆に埋没費用は発生しない。
このように、将来に何らかのリターンが見込める時には、問題を先送りすることによって埋没費用の発生を回避できる場合がある。しかし、もちろん先送りをすれば必ず問題が解決されるわけではない。上記の例で言えば、800円に下がった株がさらに600円まで下がれば、損失はさらに拡大してしまう。埋没費用が拡大してしまうわけである。
一般的に、当事者以外から見て無駄としか思えない投資をずるずると続けているというような場合は、この埋没費用の発生を回避しているだけである場合が多い。投資を止めてリターンが無くなった時点で、埋没費用が確定してしまうからである。しかし、そのような場合にはたいてい、投資を回収することが出来ず損失の拡大を招くだけで終わるケースが多いといわれている。
株式投資の世界には『損切り万両』という格言がある。これは、埋没費用を早めに認めることでその後の損失拡大を防ぐことを奨めるものである。また、そのような格言があると言うことは、いかに多くの人間がそのように行動できなかったかということも意味している。