高田のあたりまえノート単語集
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EHRの履歴

Electronic Health Recordの略。
健診機関の持っている検診結果のデータベースや、各医療機関が持っている電子カルテ、つまり、各人の健康に関するデータの入ったデータベースを相互に接続してデータを共有し、医療の質の向上に役立てようというアイデア。実現の暁には、各個人が、生涯にわたる自分の健康情報を自由にアクセス、管理できるようになるという。

どのように実現するのかについては、クラウド型電子カルテをベースに作るとか、公共事業として国が予算を出して巨大データセンターを作るとか、microsoft health vaultとかgoogle healthといったシステムを元に作るとか、いろんな話がある。

最近、孫正義氏が、「光の道」が出来たらソフトバンクが無料で作るといっていたけれども、実のところ、回線速度や回線の費用は、この種のシステムの実現のために、問題にはならない。データ共有自体は、光どころか、ISBNでも問題にならないと思う。EHR構築の最も面倒な問題は、回線速度などでなくマネジメントにある。

EHRを作る際の困難なポイント

言葉の標準がない

実は、医療に使われる診断名や症状名などの専門用語は、各医者により、また各医療機関により、「方言」があるものも多く、また、専門用語の定義が人によって異なるものも多い(自動診断の項目を参照のこと)。したがって、複数の医療機関や複数の医師の記録を、単純にマージしたり串刺し検索することは難しい。

この点については、現在、用語や診断基準の標準化が進められているが、必要な用語の標準化がどこまで出来るか、という点に関して、僕は少々悲観的である。医学でも、他の分野でと同様、何が標準的な用語かというのは、しばしば宗教論争になりがちであるし、また、仮に標準が決まったとしても、標準的でない用語を使う人に対して、標準用語を利用するようにすすめることも、また困難である。それに、ブレイクスルーになるような知見は、標準的でない新しい用語を使う人からこそ生まれるんじゃないかという気もする。そう考えると、標準用語の強制は、医学の進歩の可能性を殺すことになるかもしれないという気もする。

実は、大規模なシステムの相互運用の最大の問題は、こういう用語やシステム運用指針などの標準をマネジメントしていく困難さだと思う。

僕などは、完全に近い標準を確立してマネジメントするよりも、多少の用語やシステムの使い方の違いがあっても、そこそこの相互運用ができるようなアーキテクチャを検討することの方が早道だと思うけれど、さりとて、どういうアーキテクチャがいいのかについては、よくわからない。

検査機器などの違い

実は、各医療機関にある検査機器等は、精度やクセなどに多少の違いがある。そのため、たとえば、血液検査のデータの基準値などは、医療機関によって少しづつ異なっていたりする。

このため、複数の機関の検査結果を単純に比較することはできない。

実のところ、法律上も、複数の医療機関の検査結果の相互運用をどう扱うかは、やや曖昧だったりするらしい。

いくつもの医療機関を受診すると、何度も似たような検査を繰り返されることに対する批判はよく聞くし、それをEHRが改善できるのだという話も聞くのだけれど、医療機関Aの検査結果に基づいて、医療機関Bが何らかの治療行為を行ってトラブルになった際、その責任の所在はABいずれにあるのかといった問題を、どうやって解決すべきか、たぶん、非常に難しい。