高田のあたりまえノート単語集
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未来の医学研究の予算

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以前書いたブログのエントリです。

「新しい夢の医学よりも古い医学の検証にこそ、公的な支出をして欲しい」
2010年1月

某役所が出処らしい将来の医療技術の国家戦略みたいな図を見て、猛烈な違和感を覚えて、それで、このエントリーを書いています。
僕は、新しい医療技術の開発よりも、漢方薬などの古い医療技術の検証にこそ、公的な資金が支出されるべきと思っているからです。
古くからある「医療技術」には、そもそも非科学的なものも多くありますが、おそらく有益な治療法にもかかわらず科学的検証がなされていないもの、そして、制度の問題のせいで民間で科学的な検証をしにくいものが相当あるからです。
新しい治療法が、本当に患者にとって有益なものかを科学的に確かめることは大切な事です。そして、その治療法が有益かどうかを科学的に検討するためには、実際にそれを患者に使ってみたデータをいっぱい集めなくてはなりません。そうして、そのデータを使って、どれくらいの割合の患者が治ったのか、どれくらいの割合の患者に副作用などの問題が発生したかなどを検証します。この調査を「治験」といいます。
この治験には、相当のお金がかかります。でも、この調査は患者にとって重要なことですから、誰かがお金を出さなくてはいけません。
現在の制度では、大雑把な言い方をすると、その誰かにお金を出してもらうために、お金を出してくれた人に、その新しい薬の独占的な販売権を一定期間与えることになっています。お金を出した人は、この独占的な販売権を持っている期間に、薬を売って儲けて自分の出したお金を回収するのです。
この制度は、新しい薬や医療材料については、比較的良く機能しています。
僕が問題にしているのは、漢方薬などの昔から使われている薬については、この制度が、ほとんど機能していないということなのです。
当たり前のことですが、古くから使われている薬だからといって、必ずしも有効で安全というわけではありません。ほとんど迷信に近い民間療法もありますし、効果が疑問のものや、使い方によっては副作用があるものも多くあります。一方で、非常に有益なものも多くあります。
ところが、これについての科学的なデータはあまりないのです。理由は簡単で、調査のために非常にお金がかかるのに、お金を出した人にメリットがないから、です。昔からずっと使われている薬は、すでに多くの会社が作っています。ですから、誰かに独占的な販売権を与えるわけにもいきません。となれば、調査した製薬会社は、調査にかかった費用を自分だけ価格に上乗せするわけにもいきません。一社だけ値段が高ければ、その会社の製品をだれも買ってくれなくなりますから。結果、だれも科学的な調査にお金を出せないのです。
僕は、自分の患者に漢方薬を結構使います。それらの薬を多用する理由は、有効なわりに副作用が少ない(と経験的に思っている)からです。でも、有効で副作用が少ないという「科学的な証拠」はありません。データが無いからです。
上記のような状況なので、この件には民間はほとんどお金を出せません。ですから、ぜひ、公的なお金をこの分野に出して欲しいと思うのです。行政官僚自身が目利きではない、海のものとも山のものとも自分では分からない研究にお金を出すよりも遥かに有益なのではないかと思うのですが、いかがでしょう?
現状では、現場の医師は、「伝統的な治療法の中に、有効にもかかわらず科学的な検証がなされていないものもある」。つまり、「伝統的な治療法は、正統的科学による検証を経ていなくても有益でありうる」ということに否定的になれないのです。そして、我々がそれに否定的になれないということは、怪しげな疑似科学や民間療法ビジネスの温床にもなっていると思っています。
皆さん、どう思われますか?

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