主観医学の履歴
(編集中)
比較的近い未来、医学がどのように変わっていくかという点に関して、僕の考えを表現した言葉。
現代、医学と医療に起こっている、重要なトレンドの一部は、「医学が主観的になっている」という言葉で表せると思う。
主観医学に向かうトレンド
知識の主観化
医療に必要とされる知識の中心が、生物学(客観的な科学)から心理学(主観的な科学)にシフトしている。
データの主観化
医療に利用されるデータのうちで、重要とみなされるものが、様々な客観的な検査データから、主観的な患者個人の生活の記録に変わりつつある。
施設評価の主観化
医療機関に対してなされる評価が、施設ごとの治療成績や病院評価などの統計的な評価から、患者が書いたブログやネット闘病記など、患者の主観的な経験に変わりつつある。
主観医学への変化の背景
疾病構造の変化
かつて、病気の多くは感染症でした。
現在、人々が健康を失う病気の多くは、「生活習慣病」と呼ばれています。「生活習慣病」というからには、お分かりの通り、その大きな原因は生活習慣ですし、当然、最も有効な治療法というのは、生活習慣の改善ということになります。
かつての病気の多くは、その最も効果的な治療法は、薬物や手術でした。ですから、医師は、当然、それを提供する商売をしていたわけです。でも、現在、多くの医師が関心を持ち始めているのは(そして、患者からも喜ばれるのは)、生活習慣を改善させるための、一種のライフハックの知識です。
タバコや過度の飲酒を止めたり、軽い運動の習慣を身につけたり、ダイエットしたりということは、言うのは簡単ですが、実際のところ、多くの人にとっては、それほど簡単ではありません。そういった習慣改善のコツのようなものを求めて受診する人は徐々に増えてきているように感じます。
新薬の減少
医薬品業界の2010年問題にあるように、新しい薬を作るという方向の技術革新は、頭打ちになりつつあります。
現に、Twitterの医療クラスタを見ると、いろいろな専門分野の医師が、「もう、自分の分野で新しい薬は必要ない。既存の薬をより安価にしてくれて、必要な患者に必要なタイミングで提供できれば、自分の分野の問題の多くは解決する」
という趣旨の発言をしているのを見ることができます。こういう意見には異論もあるでしょうし、分野によっては、依然、新しい薬に期待をかけている人達もいるのでしょうけれど、徐々に、多くの医師が、既存の薬の、より効果的な使い方を追求する方向に変わりつつあるように見えます。
このトレンドは、製薬会社の立場からすると、特許料収入重視から価格競争力重視へ経営のポイントを変化させることになります。また、投資の方向も研究開発への投資から、新興国への工場移転のための投資へと大きくシフトさせることになります。
一方、医師にとっては、新しい薬の知識を覚えることから、病気に関する知識を一般に広め、また、必要なタイミングで受診してもらえるように啓発していくことや、必要な薬をきちんと内服してくれるように患者に丁寧に説明することへと、力を入れる場所が変わってくることを意味しているように思えます。
情報化
主観的に満足できるサービスを求められている
「医師の権威」あるいは、「科学的な医学の権威」のようなものは、急速に衰えているように見えます。そのため、現在では、多くの患者は、権威ある医師の言うことを聞くのではなくて、今の自分の悩みや痛みを解消してくれる医師の言うことだから聞くようになってきています。
主観医学とは
上記のようなトレンドのため、医療で要求される知識のセットは、「新しい分子生物学」のような知識から、急速に、「プレゼン術」とか「ライフハック」とか「コーチング」みたいな話に変化しつつあるように思います。
前者がなくなる、と言っているのではありませんし、誤解してほしくないのですが、「医学が科学的でなくなる」と言っているわけではありません。実用的な知識ではあるけれど、あまり客観的な科学とは言いがたい知識が、医学の中で、いまよりも相当大きなシェアを占めるようになるだろう、と思っているのです。
主観医学のためのインフラ
たぶん、今日中に追記します。もう少し待っててください。