バイオインフォマティクス革命がPC革命やネット革命のようにならない理由の履歴
今日、バイオパンクという本を読んで。
ちょっとひどいな、と思ったのでここに反論を書いておこうと思う。
この本の趣旨は、要するに、自宅のガレージで遺伝子工学の実験をしているような輩が、近い将来、現在のIT革命以上に凄い革命を起こすだろうというもの。
うん、趣旨はわかる。でも、とてもじゃないけれど、僕は、そういうふうには思えないのだ。
はじめに(そもそも、この本は何を主張しているのか?)
遺伝子って?遺伝子工学って?
遺伝子工学ってのは、遺伝子やゲノムを読んだり、変更したりする技術のことだ。
この、遺伝子っていうやつは、生命の部品の設計図のことで、ゲノムってのは、一つの生物を作るために必要な一揃いの遺伝子のまとまりのこと。
ざっくりとした比喩として、ゲノムってのは、いきものを動かしているプログラムのようなものだと考えてもいい。20世紀の生物学は、人間のような相当に複雑ないきものでも、実は、一種のコンピュータのようなものにすぎないと明らかにした。
その人間コンピュータにインストールされているプログラムの集合が人間のゲノムだ。
人間だけじゃない。現在では、イネでも犬でもニワトリでも、生きているものは、すべて、一週のコンピュータだと考えられている。それぞれのコンピュータに入っているプログラムの一覧が、それぞれ、イネゲノム、イヌゲノム、ニワトリゲノムだ。
でも、同じ人間だって、人によって、少しずつ違うではないか?
そのとおり。それぞれの人に入っているプロ
グラムは少しずつ違うのだ。その違いが、様々な生まれついての体質の違いの原因であったり、病気のなりやすさの違いであったりもするわけだ。だから、遺伝子解読で、あなたがどんな病気になりやすいかを予測したり、あなたがどういう体質なのか(その理由が何なのか)を調べたりできるかもしれない。
また、遺伝子を書き換えることで、体質を変えたり病気のなりやすさを変えたり、病気の治療をできるようになるかもしれない。
ガレージで遺伝子工学って?
さて、このゲノムを読むためには、シーケンサという機械が必要だ。このシーケンサ、数年前までは数千万円以上していたんだけれど、ムーアの法則にしたがって、急速に性能が向上する一方、価格も下落した。結果、今では、自宅のガレージに所有している人達もいるわけだ。
自分のうちで遺伝子を解読して、何の役に立つの?
それは、まだ分からない。
今の段階では、彼らのやっていることは、ただのホビーだ。遺伝子情報で遊んでいる、というだけ。でも、将来は、これが巨大産業になるかもしれない。今のPC業界をリードしている企業たち、たとえばアップルなんかだって、ガレージのホビイストから生まれたことを思い出そう。ひょっとしたら、近い将来、彼らが凄い革命を起こすかもしれない。
バイオインフォマティクスとは何か?
上で書いたゲノム解読もそうだけれど、そういう最近の生物学の解析機械が読みだすデータっていうのは、結構膨大なデータだ。例えば、ゲノム解析だと、解析結果は、合計数百メガバイトから数ギガバイトのテキストファイルになる。こんな「検査結果」の全体を人間の目で読むのは、不可能に近い。
だから、最近の生物学の研究にはコンピュータが欠かせない。というか、実験結果の全体を「見る」ことも現実的には無理なわけだから、結果を分析するには、それなりのプログラムを描かなくちゃいけない。つまり、生物学の研究をする人の中に、プログラムを書ける人(できれば、様々な情報科学の理論やテクニックに精通した人)が必要になってきたんだ。そういう訳で、生物学と情報科学の融合分野、バイオインフォマティクスという学問領域が生まれた。