産業革命の履歴
テクノロジーの発明・科学上の発見
1769年 英ジェームズ・ワットによる新型の蒸気機関の開発が、産業革命の契機とされる。ワットが蒸気機関の発明者とされるが誤りである。1600年代からセイヴァリ、ニューコメンらによって蒸気機関は開発されていた。
ワットの蒸気機関は、効率を向上させたことである。効率がある臨界点(ティッピング・ポイント)を超えたことにより、実用段階が始まり、普及が始まった。
オートメーション
炭鉱
オートメーションとは、技術を既存の仕組みへ適用することである。蒸気機関の最初の用途は、炭鉱であった。掘り出した石炭の積み出しに使われた。
機織
次の用途は、機織であった。機織が家内手工業から大量生産を可能にする近代工業へと転換した。日本の明治維新後の殖産興業も、富岡製糸工場や野麦峠の悲劇に見られるとおり、機織であった。機織が手工業から機械工業に転換したことにより、生糸の生産量が激増した。
既存の仕組みの自動化
炭鉱の積み出しにしろ、機織にしろ、従来、手動で行っていたものが省力化され生産性が劇的に向上したものの、新たなる社会価値を生み出したわけではなかった。
イノベーション
蒸気機関車と商用鉄道
蒸気機関のワットによる改良開発から新たなる用途の普及まで、約60年待たねばならなかった。
1804年、英リチャード・トレビシックが蒸気機関車の走行に成功した。そして1825年、英ジョージ・スチーブンソンが蒸気機関車による商用鉄道サービスを開始し、成功した。そして商用鉄道は、一気にヨーロッパ全土とアメリカに飛び火した。
1830年にはアメリカ、1832年にはフランス、1835年にはドイツ、1830年代後半にはベルギーとイタリアで鉄道開業が始まった。
そして1869年にはアメリカ大陸横断鉄道が開通、1872年には日本初の新橋~横浜間の鉄道が開業した。
蒸気機関は、今まで存在し得なかった陸路の人の高速大量輸送を可能にした。これが新たなる社会価値であり、イノベーションと呼ぶべきものである。
蒸気船
1807年、米ロバート・フルトンは蒸気船の試運転に成功する。1840年、アヘン戦争にてイギリスが始めて蒸気船を戦争に投入した。兵力の大量高速輸送が可能になった。1840年代には軍艦蒸気船の建造ラッシュとなり、そのいくつかは極東を目指すことになる。
1853年、米ペリー率いる黒船が来日した。サスケハナ号とミシシッピー号は、日本に到達した初めての蒸気船だった。1850年代から1860年代にかけて、イギリス・フランス・オランダ・ロシアの蒸気船が日本に押し寄せた。
帝国の繁栄
いち早く工業化に成功したイギリスでは、生糸の全生産を国内で消費することができず、築きつつある植民地へ輸出することになった。蒸気船による大量輸出が可能になった。生糸の輸出は植民地から富を吸い上げる役目を果たし、19世紀の大英帝国の繁栄をもたらした。植民地の犠牲があったにせよ、イギリス社会の転換という点では、これもまたイノベーションだったと言える。
イノベーションの伝播速度
当時、ヨーロッパ諸国にとって、世界は実質、ヨーロッパとアメリカであった。鉄道も蒸気船も普及し始めるとわずか10年前後で全ヨーロッパとアメリカに普及した。
技術適用から商用化までの道のりは案外長い
これを現在のスケールで考える。インターネットの発明は1969年で商用開始は1992年である(通信技術の発明となると、さらに遡り1837年になるので、ここでは省略)。蒸気機関車の発明から商用化までが21年、インターネットの発明から商用化まで23年を要した。
インターネットの時代(第四次知識革命)をドッグイヤーと言うが、技術の開発から適用、商用化までの道のりは、19世紀も20世紀末も、それほど変わらなかった。
たとえば、タブレットPCという概念は、昔からあり、実際製品もいくつか出ていたが、本格的な普及にはならなかった。Apple iPadの登場により、ようやく本格的普及期の入り口に入ったのかもしれない。インターネットによるイノベーションの時代(第四次知識革命)は、まだ端緒についたばかりである。
イノベーション史体系
- 印刷革命(第二次知識革命)
- 産業革命(機械革命)
- 電気通信革命(コミュニケーション革命:第三次知識革命)
- 放送革命(第四次知識革命)
- IT革命(第五次知識革命)
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あと書き
本「産業革命」は、ピーター・ドラッカーの「プロフェッショナルの条件」(20代のうちに読んでいただきたい書)に書かれていた内容をベース、Wikipediaで各史実を参照し、まとめたものです。
本来、こういったことを歴史から学び取らなければならないと考えています。蒸気機関の発明を起因とする産業革命、生糸生産と貿易によるイギリスの繁栄、鉄道開始、日本の殖産興業、これらの事象は、中学・高校の歴史教科書に全て出てくることです。しかし、各事象を「点」としか扱わないため、これら事象全体を通じて何が起きていたのか?という俯瞰する力・洞察力が養われていません。
もし教育に携わることができるのなら、こういったことを教えたい。イノベーションは過去に起きていた。そして現代の我々も、歴史から学ぶことによって、未来を切り開くことができるのです。