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史学研究の大望を起して

 史学研究の大望を起して、上京を思立つた自分は、父母の家を辞した日の夕方、この伯母が家に着いて、晩れゆく秋の三日四日、あかぬ別れを第二の故郷と偕に惜み惜まれたのであつた。
 一夜、伯母やお苑さんと随分夜更くるまで語り合つて、枕に就いたのは遠近に一番鶏の声を聞く頃であつたが、翌くる朝は怎うしたものか、例になく早く目が覚めた。枕頭の障子には、わづかに水を撒いた許りの薄光が、声もなく動いて居る。前夜お苑さんが、物語に気を取られて雨戸を閉めるのを忘れたのだ。まだ/\、早いな、と思つたが、大望を抱いてる身の、宛然初陣の暁と云つたやうな心地は、目がさめてから猶温かい臥床を離れぬのを、何か安逸を貪る所業の様に感じさせた。自分は、人の眠を妨げぬやうに静かに起きて、柱に懸けてあつた手拭を取つて、サテ音させぬ様に障子を明けた。秋の朝風の冷たさが、颯と心地よく全身に沁み渡る。庭へ下りた。

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