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義犬
青州に朱老人というのがあって、薬を売るのを家業とし、常に妻と妾と犬とを連れて、南康県付近を往来していた。
紹興二十七年四月、黄岡の旅館にある時、近所の村民が迎いに来て、母が病中であるからその脈を見た上で相当の薬をあたえてくれと頼んだ。ここから五、六里の所だというので、朱老人は今夜そこへ一泊するつもりで、妻妾と犬とを伴って出てゆくと、途中の森のなかには村民の徒党が待ち伏せをしていて、老人は勿論、あわせて妻妾をも惨殺して、その金嚢や荷物を奪い取った。
そのなかで、犬は無事に逃げた。彼はその場から主人の実家へ一散に駈け戻って、しきりに悲しげに吠え立てるのみか、何事をか訴えるように爪で地を掻きむしった。家の者もそれを怪しんで、県の役所へ牽いてゆくと、犬はその庭に伏して又しきりに吠えつづけた。その様子をみて、役人もさとった。
「もしやお前の主人が何者にか殺されたのではないか。それならば案内しろ」
言い聞かされて、犬はすぐに先に立って出た。役人らもそのあとに付いてゆくと、犬はかの森のなかへ案内して、三人の死骸の埋めてある場所を教えた。
「死骸はこれで判ったが、賊のありかはどこだ」
犬は又かれらを村民の住み家に案内したので、賊の一党はみな召捕られた。(同上)
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