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水野閣老の天保度改革

 水野閣老の天保度改革は今ここに説くまでもない。その倹約の趣意がますます徹底的になって、贅沢物の禁止、色茶屋の取り払い、劇場の移転など、それからそれへと励行されたが、その一つとして江戸の娘義太夫三十六人は風俗を紊《みだ》すものと認められ、十一月二十七日の夜に自宅または寄席の楽屋から召し捕られて、いずれも伝馬町の牢屋へ送られた。
「可哀そうだが、お上の指図だ」と、吉五郎は云った。半七もその召し捕りにむかった一人であった。
 娘義太夫はその名のごとくに若い女が多かったが、大抵は十五六歳から二十二三歳に至る色盛りで、風俗をみだすと認められたのも、それが為であった。かれらは女牢でその年を送って、明くる天保十三年の三月、今後は正業に就くことを誓って釈放された。去年の冬から百日あまりの入牢《じゅろう》が一種の懲戒処分であった。
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