イノベーションの履歴
イノベーションの誤用
英:Innovation
- 名詞
1 革新,刷新,一新.
2 新しく採り入れたもの,革新したもの; 新機軸; 新制度(など).
出典:新英和中辞典 第6版 (研究社)(Excite辞書)
技術革新ではない
1958年の経済白書がイノベーションを「技術革新」と紹介したことから(Wikipediaによる)、日本では多くの技術企業(製造業・IT企業など)がイノベーションを「技術革新」として使っている。しかし、これは誤りである。Googleの検索結果で、いかに誤用が多いかを示す。
Googleによる検索結果
(2010年1月3日)
「革新 成長」・・199万件
「技術革新 成長」・・88.1万件
「革新 戦略」・・214万件
「技術革新 戦略」・・104万件
「革新 企業」・・408万件
「技術革新 企業」・・207万件
より広義な意味
ピーター・ドラッカー等によれば、イノベーションを経営革新や事業革新、社会革新など、より広い意味で捉えている。※1
誤用の弊害
「技術革新」と誤用してしまっているため、日本の企業・学会では「企業成長にはさらなる技術革新が必要である」とか「企業戦略における技術革新」といったように、技術偏重の傾向が見受けられる。技術が一流でも経営が二流のために成果が出せない企業が多いのではないだろうか?※2
非技術的なイノベーションのケース
たとえば、米国でイノベーティブな企業と言えば、GoogleやApple等のIT系企業から、P&Gなどの老舗企業も含まれる。全て技術系企業であるが、技術がイノベーティブであるというよりも、事業構想力や事業統合力、マーケティング力がイノベーティブである。
Googleの検索エンジンは、決して技術的に頂点に立つものではない。ベイジアンネットワークのアルゴリズムや、自然文検索エンジンと言われるMicrosoftのPowerseなど、技術的に優れているアルゴリズムは他にもある。検索エンジンをグリッド技術など他の技術と統合した結果、そこそこの検索精度でほぼ世界中のWebサイトを検索できるサービスを提供できた点が、イノベーションである。
Apple iPod
AppleのiPodは、事業構想力・事業統合力の最たるよい例と言える。技術自体は枯れたものが多く、決してイノベーティブではない。しかし、製品とサービス(iTunes)を統合し、新しい音楽のある生活シーンを構想し実行した点がイノベーティブであると言える。すなわち、ライフスタイルのイノベーションと言うべきだろうか。
シュンペーターによる説明
一般的には、「イノベーション」は、オーストリア出身のヨゼフ・A・シュンペーターが打ちたてた理論とされる。1912年、29歳になったシュンペーターの2冊目の著書『経済発展の理論』で紹介された。
新結合(独:neue Kombination=イノベーション)とは、「生産的諸力の結合の変更」である。
1 新しい財貨、新しい品質の財貨の生産
2 新しい生産方法の導入
3 新しい販路の開拓
4 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5 新しい組織の実現
シュンペーター―孤高の経済学者 (岩波新書) 伊東 光晴 , 根井 雅弘 著
http://mediamarker.net/u/naokis/?asin=4004302730
イノベーションを論ずる識者たち
あらためて論ずることにする。
ピーター・ドラッカー
クレイトン・クリステンセン
トム・ケリー
脚注
※1
一方で、政治領域では「革新」と言えば社会主義や共産主義などへの政治形態の変更を指す(Wikipediaによる)。英和辞典が示すように「イノベーション」を単純に「革新」として翻訳するわけにはいかなそうである。
※2
2009年11月の民主党事業仕分けにおいて、日本のスパコンが世界一である必要があるかどうかが論点になった。筆者にとっては、スパコンが必要だという科学者の言い分は、技術偏重以外の何物でもないと感じた。技術を開発してどのように日本の発展に貢献するのか、具体的な戦略の提示がないのが残念である。