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「はあ、艦橋当直」

「はあ、艦橋当直」
「こっちは艦長だ。どうだ入野一等兵曹、あと三十浬で飛行島にぶつかる筈だが、西南西にあたって、なにか光は見えぬか」
「はい、なにも見えません。只今艦橋は豪雨と烈風にさらされ、全然遠方の監視ができません」
「そうか。苦しいだろうが、大いに頑張ってくれ。なにか見えたらすぐ知らせよ」
「はっ、畏まりました」
 それから十分ほど過ぎた。
 雨脚が急に衰え、雲が高くなったようである。
 艦橋に立つ入野一等兵曹は、行手にあたって、ほの明るい光のかたまりを見出した。夜光の羅針儀の蓋をとってみると、その光物は正に西南西の線上にあった。
「おお、あれこそ飛行島にちがいない」
 入野は直ちに電話機をとって、
「艦長へ報告、西南西にあたって、光を放っているものが見えます」
「見えたか。よし、見失わぬように監視をつづけていよ」
「はい、承知いたしました」
 電話が切れると間もなく、艦橋の下の昇降口があいて、そこから艦長の丸顔が現れた。あとには先任将校が続いてのぼってくる。狭い艦橋の上は、芋を洗うようにお互の体がぶつかった。
「おお、あれだな」
 と艦長水原少佐が、入野のところへよってきて、白い手袋をはめた手をあげた。

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