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栗(くり)色の髪を縮らした小娘

 ――栗(くり)色の髪を縮らした小娘が彼を呼んでいる、なよやかなまた揶揄(からか)うような様子で……。碧眼(へきがん)の幼い少年の蒼(あお)い顔が、憂わしげに彼を眺めている……。その他いろんな笑顔や眼付――見つめられると顔が真赤になるような、物珍らしげな挑(いど)みかかる眼――犬のやさしい眼付のような、愛を含んだ切ない眼――または厳(いか)め しい眼、または苦悶の眼……。それから、口元のしまった黒髪の蒼ざめた女の面影、その眼は顔の半ばを覆いつくすかと思われるほど大きく開かれて、苦しくな るほど激しく彼を見つめている……。それから、すべてのうちで最もなつかしいのは、澄みきった灰色の眼と、心もち開いた口と、光ってる細かな歯並とで、彼 に微笑(ほほえ)みかけてくれる面影……。ああ、 その寛大な愛深い麗わしい微笑み! それはやさしい愛情で人の心を溶かしてしまう。いかに人を喜ばすことか! いかに人から好かれることか! もっと!  もっと微笑みかけてくれ! 消え去ってはいけない!――ああ、悲しくもそれは消え失せてしまう。しかし人の心に得もいえぬやさしみを残してくれる。もうつ らいことは少しもない、悲しいことは少しもない、もう何もない……。ただ軽やかな夢ばかり、夏の麗わしい日に見られる聖母の糸(空中にかかって浮んでる蜘 蛛の糸――訳者)のように太陽の光線の中に漂ってる、朗らかな楽(がく)の音(ね)ば かり……。――では今しがた通り過ぎたのはなんだろう? 胸騒がしい情熱を子供心にしみ込ませるあれらの姿はなんだろう? かつて彼はまだそれらの姿を見 たことがなかった。けれども彼はそれらを知っていた。見覚えがあった。それらはどこから来るのか? 「存在」のいかなる薄暗い深淵(しんえん)から来るのか? すでにあったものからなのか、……あるいはやがてあろうとするものからなのか?……

緑色の満々たる河水は - クレジットカード王国 - mindia(マインディア)

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