クレジットカード王国の最新の日記
<< 前の日記へ 一覧を見る 次の日記へ >>

 

今や、すべては消え失せ

今や、すべては消え失せ、すべての形は溶け去ってしまう……。最後にも一度、靄(もや)のヴェールを通して、あたかも高くを翔(かけ)ってる時のように、しかも自分の上の方に、満々と湛(たた)えた河が、野を覆いながら、おごそかに流れながら、ゆるやかなほとんど不動の姿で、現われてくる。そしてはるか遠くには、地平のはての鋼鉄の光のようにして、水の平野が、震える水の一線がある――海が。河はその海へ奔(はし)っている。また海は河へ奔ってるがようである。海は河を吸い寄せる。河は海を慕う。河は海に隠れようとしている……。音楽は渦(うず)巻き、舞踊の麗わしい節奏は狂わしいまでに揺り動く。その勝ち誇った旋風の中に、すべてが巻き込まれて一掃される……。自由な魂が宙をかすめて翔(かけ)る、空気に酔いながら鋭い声を発して空を横ぎる、燕(つばめ)の飛翔(ひしょう)のように。……歓喜、歓喜! もはや何物もない! おう、限りなき幸福!……
 時間は過ぎていった。夕暮になっていた。階段は闇(やみ)に包まれていた。雨のつぶが、河の平らな面(おもて)に丸い輪を描くと、流れが踊りつつそれを運んでいった。時おりは、木の枝が、黒い樹皮が、音もなく通りかかって、過ぎ去っていった。毒蜘蛛は、餌(えさ)を食いあきて、いちばん暗い片隅(すみ)に引込んでしまった。――そして小さなクリストフは、よごれた蒼白い顔を幸福の色に輝かしながら、いつまでも軒窓の縁にもたれていた。彼は眠っていた。

緑色の満々たる河水は - クレジットカード王国 - mindia(マインディア)

コメント

コメントはまだありません

コメントできません