弁証法の履歴
ヘーゲルは初期ギリシア哲学のゼノンとソクラテスから弁証法的思考という概念をとってきて発展させた。彼らの初期弁証法は問いと答えを組み合わせて知を追求するという方法であったが、ヘーゲルにおいて弁証法は神的解釈、宇宙の法則、歴史の隠れた推進力をひとまとめにしたダイナミズムをもつ方法となった。テーゼ(観念)から始めアンチテーゼ(観念の修正)により反駁しその二つをより大きく包括的な概念に統合するのである。この統合が新たなテーゼになってまた弁証法が起動する、という運動をものごと全体の真理=全体性が見出されるまで続けられる。
しかし、これは慣例的な見方であって、ジジェクの解釈とは完全に異なっている。ジジェクにとってはもっと、ヘーゲルひいては弁証法は、ラディカルである。ジジェクにとって弁証法は和解され総合された視点を生み出すどころか「矛盾はあらゆる同一性の内的な条件である」ことを示すものなのである。なにかについてのある観念は、ある亀裂によって引き裂かれていて、かつこの亀裂はある観念の存在には不可欠なのだということだ。規則を証明するのは例外である。規則にとって例外は不可欠である。