枝を伐って根を枯らすの最新の日記
袷の肌にしみる寒さ
繭買いや行商人などの姿が、安旅籠の二階などに見られる、五六月の交になるまで、旅客の迹のすっかり絶えてしまうこの町にも、県の官吏の定宿になっている浜屋だけには、時々洋服姿で入って来る泊客があった。その中には、鉄道の方の役員や、保険会社の勧誘員というような人達もあったが、それも月が一月へ入ると、ぱったり足がたえてしまって、浜屋の人達は、炉端に額を鳩めて、飽々する時間を消しかねるような怠屈な日が多かった。
「さあ、こんな事をしちゃいられない」
朝の拭掃除がすんで了うと、その仲間に加わって、時のたつのを知らずに話に耽っていたお島は、新建の奥座敷で、昨夜も悪好きな花に夜を更していた主婦の、起きて出て来る姿をみると、急いで暖かい炉端を離れた。そして冬中女の手のへらされた勝手元の忙しい働きの隙々に見るように、主婦から配がわれている仕事に坐った。
ヴォラーレ
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