大胆な放言
私もどきんとさせられた。そうして思わず熱海検事の手を握らせられたのであった。
「……実に……御同感です。志村のぶ子と樫尾初蔵の二人はやまと民族の意識を十二分に持っている者です。彼等二人は今後吾々のために、今まで以上の働きをするに違いありません。私は彼等二人を捕えたくないのです。……その代り……今後、J・I・Cの団員は二重橋橋下に一歩も立ち入らせますまい」
熱海氏は返事をしなかった。恭しく帽子を脱いで別れを告げると、依然として微笑しいしい古木書記を従えて入口の方へ歩いて行った。そうして何か考え考え扉の前まで来ると思い出したように振り返った。
「狭山さん。唯一つ遺憾な事がありますね」
「はあ……何ですか」
「お互にその美人の顔を一度も見なかったじゃないですか。ハハハ……」
私は唖然となってその後姿を見送った。
新聞に出ているのは、これだけの事実を切り縮めたものでかなり杜撰なところが多いばかりでなく、事件の核心にはちっとも触れていなかった。すなわち引き続いた翌日の朝刊に岩形圭吾氏の屍体解剖の結果としては、毒殺に使用した薬物の正体が依然として不明なので目下研究中であること……注射は筋肉注射であったこと……左腕の刺青はNK(のぶ子、浩太郎)の二字の組み合わせであったことが辛うじて判明したこと……などが報道してあるだけである。又警視庁の活躍としては、銀行の一件だのカフェー・ユートピアの出来事などは無論書いてある筈がない。ただ私がステーション・ホテルを出てから数時間の間、行方を晦ましていた事、刑事が八方に飛んで、借着屋を調べた事なぞを書いておしまいに……、
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