海流に揺られる小さな魚
僕はうっとりとして身体を任せる。
誰かが鋭く口笛を吹く。歓声があがる。
ドラムスがゆっくりとしたテンポで、リズムを決め始める。パーカッションがそれに色彩を与え、エレクトリック・バイオリンがひときわ高い音色ですすり泣くように鳴る。
さっきまでとはうって変わって、穏やかに、うねるようなテンポで、男の歌が始まる。
カスタネットの連打が遠く、近く、星たちの瞬きのように谺する。歌う男は、遠い砂漠の日没に、羊飼いたちが神に祈るように歌う。単調な旋律が繰り返され、横笛を吹く少女は、歌う男の耳元にため息を吐きかけるように、男とほとんど身体を重ねるような位置で揺れる。男は少女の方を見向きもしないで、お経のようなその歌を無愛想に歌う。鷹の目をしたリード・ギタリストはいつの間にか、一二弦ギターに持ち換えている。
その時僕は、ジョジョがいないのに気づく。オサムの姿は確認できる。〈町さらい〉の老人はともかく、ジョジョはすぐ近くにいるはずだと、今まで思っていた。ちょっと不安になってくる。
仮設ステージの上では、歌う男の声がいつまでも続く。少女の横笛も歌う男の声にからみついたまま、いつまでも自分の心に気づかない男への、最後の挑発の歌のように続く。
その旋律をそそのかすように、煽り立てるように、空中のステージで、黒い旗の動きが慌ただしくなる。単に左右に振るだけでなく、数十メートル上空のあぶなっかしい〈塔〉のひさしの上で、それを掲げている男たちがその旗を持ったまま、様々な方向に大きく動く。
高田馬場 整体
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