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J・I・Cの真相

どのような恐ろしい、残忍非道なものでございましたかは貴方様のお察しに任せます。いずれに致しましても、前に申上げました表面的な主義主張とは全くうらはら[#「うらはら」に傍点]の実情でございまして、詳しくお話し申上げたいのは山々でございますが、あまり長く相成りますから併せて略させて頂きます。
 妾はその話の一々に就きまして思い当る事ばかりでございましたのみならず、永年尋ね求めておりました伜の嬢次が、紐育の郵便局に奉職致しておりますことが最近J・I・Cに判明致しまして、人知れず人質同様の監視を受けております状態で、妾の素振によりましては、その生命を代償として、妾を威嚇致します準備が整っております旨を承わりました妾は、余りの恐ろしさに魂も身に添わず、病気のように相成りましてこの教会に引返し、樫尾に扶けられて逃亡の準備を致しました後、暫くは寝台の上に打ちたおれておりました程でございました。
 とは申せ、そう致しますうちに尚よく考えまわしてみますと、妾はまだJ・I・Cの内情を耳に致しましたばかりで、その恐ろしい仕事の実際を眼に見た訳ではございませぬ。嬢次の事とても同様でございまして、妾が親しく会ってみました上でなければ、真偽の程が確かとは申されないのでございます。ことに樫尾という人間がどうしてこのように妾の世話ばかり焼きましてJ・I・Cから裏切らせようと致しますのか、その理由が、まだハッキリと解った訳でもございませぬのに、みすみす眼の前の夫を見殺しに致して、妾一人何しに海外へ立ち去る事が出来ましょう。ですからその夜に入りまして、介抱しておりました樫尾が立ち去るのを待ちかねまして、くるめく心を取り直しつつ、カフェー・ユートピアに夫を呼び出し、樫尾の物語を打ち明けまして、J・I・Cの真相を妾に洩らさなかった夫の無情を怨みました。
横浜市中区 歯医者

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