枝を伐って根を枯らすの最新の日記
病気が癒るとも癒らぬとも
新座敷の方の庭から、丁字形に入込んでいる中庭に臨んだ主人の寝室を、お島はある朝、毎朝するように掃除していた。障子襖の燻ぼれたその部屋には、持主のいない真新しい箪笥が二棹も駢んでいて、嫁の着物がそっくり中に仕舞われたきり、錠がおろされてあった。お島は苦しい夢を見ているような心持で、そこを掃出していたが、不安と悔恨とが、また新しく胸に沁出していた。
お島は人に口を利くのも、顔を見られるのも厭になったような自分の心の怯えを紛らせるために、一層精悍しい様子をして立働いていた。そして客の膳立などをする場所に当ててある薄暗い部屋で、妹達と一緒に朝飯をすますと、自分独りの思いに耽るために、急いで湯殿へ入っていった。窓に色硝子などをはめた湯殿には、板壁にかかった姿見が、うっすり昨夜の湯気に曇っていた。
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