枝を伐って根を枯らすの最新の日記
恐怖と好奇の眼
それは僕がかつて恐ろしい目にあった虎丸だ。約三ヶ月目で相会したどろぼう[#「どろぼう」に傍点]船だが、もう舷側にはカキ殻が夥しく附着し、甲板には人影もなく、船体から烈しい臭気が発散している。「博士、死の船です。幽霊船です。甲板から不気味な妖気が立っています」
「うむ」と、老博士も好奇の眼を上げた。
「君たちはどうだ。幽霊船を探ってみないか」僕は、生残った技術員たちに呼びかけたが、彼等は、
「いや、真ッ平だ」
「あんな船に乗移ると、生命が奪われる」
と、口々に呟いて、顫えている。
「なんだ、意気地なし」
僕は、虎丸の舷側に垂れ下っている、タラップの端をつかんで、足をかけ、猿のように甲板へ登って往った。老博士はと、振かえると、かれもまた勇敢に、タラップを登ってくる。中甲板には、五つの屍骸が、ごろごろしていた。
「あッ!」あまりの恐ろしさに、おもわず叫んだ。
「博士! あの生々しい屍骸をごらんなさい」
川口 歯科
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