枝を伐って根を枯らすの最新の日記
混凝土令嬢
「アラッ。鬚野さん……鬚野先生……センセ」
どこからか甲高い、少々媚めかしい声が聞こえて来た。吾輩はバッタリと立止まった。バッタリというのは月並な附け文句ではない。吾輩が立止るトタンに両脚を突込んでいる片チンバのゴム長靴が、実際にバッタリと音を立てたのだ。序に水の沁み込んだ靴底に吸付いた吾輩の右足の裏が、ビチビチと音を立てたが、これは少々不潔だから略したに過ぎないのだ。
吾輩は空気抜の附いた流行色の古山高帽を冠り直した。裸体一貫の上に着た古い二重マントのボタンをかけた。
通りがかりのルンペンを呼ぶのに最初「サン」附けにして、あとから一段上の先生なんかと二た通りに呼分けるなんて油断のならぬ奴だ。況んやそれが若い、媚めかしい声なるに於いてをや……といったような第六感がピインと来たから、特別に悠々と振返った。
それはこの町の郊外に近い、淋しい通りに在る立派なお屋敷であった。
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