枝を伐って根を枯らすの最新の日記
民友会の巨頭株
市会議員のチャキチャキで、ツイ四五週間前のこと、目下百余万円を投じて建設中の、市会議事堂のコンクリートを噛り過ぎた酬いで、赤い煉瓦の法律病院に入院して、新聞と検事に背中をたたかれたたかれ財産と臓腑の清算、尻拭い中である。その奥さんは、その亭主の尻拭い紙である色々な重要書類を紛失したのを苦にして、発狂して死んでしまった……と云ったら誰でも「ああ。あの混凝土野郎か」と云うであろう。
その混凝土氏こと、山木勘九郎氏邸の前を通ると、鬱蒼たる樫の木立の奥に、青空の光りを含んだ八手の葉が重なり合って覗いている。その向うにゴチック式の毒々しい色硝子を嵌め込んだ和洋折衷の玄関が、贅沢にも真昼さなかから電燈を点けて覗いているもう一つ向うに、コンクリートの堂々たる西洋館が聳えているところを見ると、如何にも容易ならぬ金持らしい。ちょっと忍び込んでみたくなる位である。多分、あの樫の木の闇がりが御自慢なのであろうが、混凝土を喰った証拠に混凝土の家を建てるのはドウカと思う。……なぞと詰まらない反感を起しながら門の前を通り過ぎようとしているところへ、その鬱蒼たる樫の木闇がりの奥から聞こえたのが今の呼声だ。
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