枝を伐って根を枯らすの最新の日記
これを着てお寝みなさい
笹村の甥が一人、田舎から出て来たころには家が狭いので、一緒にいた深山という友人は同じ長屋の別の家に住むことになった。いかなる場合にも離れることの出来なかった深山には、笹村の旅行中別に新しい友人などが出来ていた。生活上の心配をしてくれるある先輩とも往来していた。帰京してからの笹村は深山と一緒に住まっていても、どこか相手の心に奥底が出来たように思った。かなりな収入もあって、暮に旅へ立つとき深山の生活状態はひどく切迫しているようであったが、笹村の心は、かつて漂浪生活を送ったことのある大阪の土地や、そこで久しぶりで逢える兄の方へ飛んでいて、それを顧みる余裕がなかった。深山が荷造りの手伝いなどしてくれるのを、当然のことのように考えていた。今度帰って来ても、やはりそれを気づかずにいた。けれど深山が、自分にばかり調子を合わしていないことが少しずつ解って来た。
「笹村には僕も随分努めているつもりなんだ。今度の家だって、あの男が寂しいからいてやるんだ。」
ハッピーメール
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