枝を伐って根を枯らす
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ハンカチには大抵バイオレット系の香水

ほかの連中は多少の倦怠を感じて来たらしい。熱海検事は小声で何事か古木書記に口授し初めた。志免警部は両手を背後に廻して、屍体の頭のてっぺんから足の爪先まで見まわし初めた。そのほかの連中も窓の近くでぼそぼそ話をしたり外を眺めてこっそり欠伸をしたりしていた。
 私はその間に今のハンカチが見せてくれた奇怪な暗示材料を、岩形氏の死状と照し合わせて、万に一つも間違いのない結論に到達しようと努力した。そうしてほんのもう一歩か二歩で結論に手が達きそうな気持ちになっているところへ、最前から所在なさにぼんやりと煙草ばかり吹かしていた杉川医師が突然思い出したように私の方を振り返った。
「最早ボーイが気付いているでしょう。一寸行って見ます」
 私はちょっとの間眼に見えないものを取り逃がしたようにいらいらしたが、すぐに落着いて答えた。
「……どうか……もし意識がたしかになっているようでしたら今些し問いたい事があります」
 杉川医師は首肯きながらすぐに室を出て行ったが、その足音が廊下に消え去ると間もなく、隣の室の卓上電話が突然にけたたましく鳴り出した。
 私はすぐに飛んで行って受話器を外した。
「……もしもし……もしもし……貴方はステーションホテルですか。十四号室に居られる狭山さんを……」
「僕だ僕だ。君は金丸君だろう」
「あ。貴下でしたか……では報告します」
「銀行から掛けているのかね」
「そうです。報告の内容はここに居る人が皆知っている事ばかりです」
「ああいいよ。どうだったね」
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