枝を伐って根を枯らすの最新の日記
建具屋のおじいさんの尽力
お玉さんは町じゅうの人を呪うように大きな声で叫びつづけながら、傲然として人力車にゆられて行った。わたしは路地の口に立って見送った。建具屋のおじいさんと徳さんとは人力車のあとに付いて行った。
「妹もながなが御厄介になりました。」
巣鴨から帰って来て、徳さんは近所へいちいち挨拶にまわった。そうして、その晩のうちに世帯をたたんで、元の貸本屋の上田屋の二階に同居した。そのあとへは更に手入れをして質屋の隠居さんが越して来た。近所ではあるが町内が違うので、わたしはその後徳さんの姿を見かけることはほとんど無かった。
それからまた二年過ぎた。そうして、柚湯の日に徳さんの死を突然きいたのである。徳さんの末路は悲惨であった。しかし徳さんもお玉さんもあくまで周囲の人間を土百姓と罵って、自分たちだけがほんとうの江戸っ児であると誇りつつ、長い一生を強情に押し通して行ったかと思うと、単に悲惨というよりも、むしろ悲壮の感がないでもない。
そのあくる日の午後にわたしは再び建具屋のおじいさんに湯屋で逢った。おじいさんは徳さんの葬式から今帰ったところだと云った。
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