枝を伐って根を枯らすの最新の日記
肩をもみましょうか
養父の手のすいた時に、後へ廻って、養母に代って機嫌を取るようにした。お島は九つ十の時分から、養父の肩を揉ませられるのが習慣になっていた。
おとらは一ト休みしてから、晴れ着の始末などをすると、そっち此方戸締をしたり、一日取ちらかった其処らを疳性らしく取片着けたりしていたが、そのうちに夫婦の間にぼつぼつ話がはじまって、今日行ったお茶屋の噂なども出た。そのお茶屋を養父も昔から知っていた。
此処から三四里もある或町の農家で同じ製紙業者の娘であったおとらは、その父親が若いおりに東京で懇意になった或女に産れた子供であったので、東京にも知合が多く、都会のことは能く知っているが、今の良人が取引上のことで、ちょくちょく其処へ出入しているうちに、いつか親しい間になったのだと云うことは、お島もおとらから聞かされて知っていた。その頃痩世帯を張っていた養父は、それまで義理の母親に育てられて、不仕合せがちであったおとらと一緒になってから、二人で心を合せて一生懸命に稼いだ。その苦労をおとらは能くお島に言聞せたが、身上ができてからのこの二三年のおとらの心持には、いくらか弛みができて来ていた。世間の快楽については、何もしらぬらしい養父から、少しずつ心が離れて、長いあいだの圧迫の反動が、彼女を動もすると放肆な生活に誘出そうとしていた。
府中市 リフォーム
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