枝を伐って根を枯らす
(0 keywords)

最新キーワード

RSS
  • キーワードはまだありません

よく使われているタグ

  • ここにタグ一覧が表示されます

Ryouのお気に入り

  • マインディアからのお知らせ マインディアからのお知らせ

枝を伐って根を枯らすのメンバー

  • Ryou Ryou
枝を伐って根を枯らすの最新の日記
<< 前の日記へ 一覧を見る 次の日記へ >>

 

誰もいない体育館

なぜ、あんな所の鍵が開いていたのか、考えてみれば不思議ね。体育館の中にもぐりこんだ私は、天井の近くをぐるりと回る鉄のデッキを走り、その人の立っている真上あたりの窓を、内側から思いきり開いたの。バスケットボールのゴールのネットがはね上げられている所。手すりにつかまって身を乗り出すと、あの人の後ろ姿に手が届きそうな位置だった。コンクリートを吹きつけた崖をはさんで、すぐ下には高架になった新しい特急の線路が一直線に延びていて、この町の全部がその向こうに拡がっているの。遠くには海と、海岸沿いに走る高速道路の橋桁が、透明な朝の光の中で西に向かってゆるやかなカーブを切っていたわ。
 気配に振り向いたあの人は私を見つけると、少し悲しそうな目をした。はっきりとした目だったけど、深く落ちこんでいた。目だけじゃなくて身体全体がとても老けて見えて、私より十才以上は年上に見えた。
 私に向かってあの人は低い、しゃがれた声で何か言った。うるさい程の蝉の声にかき消されて、私にはそれが聞こえない。
 『何? 何て言ったの』
 私は手すりから身体を乗り出して叫んだ。
 『お人形さん、気を付けな。落っこちるぞ』
 あの人はそう言った。水気のない声だった。
 『何を見ているの』
 私は叫んだ。
 私は叫んでばかりいた。蝉の声に負けないためじゃない。この人にはそれぐらい叫ばなくちゃ声が届かないって、その時私はそう決めたから。
 『たいした学校だよ、ミス・ロンリー。毎日、ジューサーにかけられているようなもんだろ。何、習ってる? 都市で生き抜いていく方法なんて、誰も教えてくれないだろ』
 早口だった。
 歌を歌っているように、私には聞こえた。
VALID SEO いまどきのSEO対策 ウィルゲート ヴォラーレ

コメント

コメントはまだありません

コメントできません