枝を伐って根を枯らす
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畳の上に尻餅

落ち着いてからも、井戸の遠いことや、畳のじめじめする茶の間の陰気くさいことが、女たちの苦情になっていたが、笹村は初めて庭の広い家へ来たのが、心持よかった。そして外へ出ると、時々配けてもらった草花を、腕車の蹴込みへ入れて帰って来た。中庭の垣根のなかには、いろいろのものが植えられた。中にはお銀と二人で、薬師の縁日で買って来たものもあった。
 子供は靴をはいて、嬉々と声を出して庭を歩き廻った。笹村はそれを前庭の小高い丘の上へ逐いあげ逐いあげしては悦んだ。
 お銀は少しずつ家に馴れて来たが、それでも日が暮れてからは、一人外へ出るようなことはめったになかった。夜もおちおち眠らないことが多かった。
 桜の葉が黄ばんで散る時分に、妊娠の徴候がまたお銀の体に見えて来た。お銀からその話を聞かされた時、笹村は、
「また手を咬まれた。」というような気がした。そして責任を脱れたいような心持は、初めての時よりも一層激しかった。
 次第に好奇心の薄らいで来た笹村は、憑いていたものが落ちたように、どうかすると女から醒めることが時々あった。そんな時の笹村の心は、幻影が目前に消えたようで寂しかった。そうして一度頓挫した心持は、容易に挽回されなかった。厭わしいような日が幾日も続いた。
 そんなことはお銀にも同じようにあるらしかったが、冷熱はいつも男よりか順調であった。
「あなたは人を翫弄にする気だったんです。あの時の言い草がそうだったんですもの。男はずうずうしいものだと、私はそう思った。」
 お銀は以前の話が出ると、時々そんなことを言って淋しそうに笑った。
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