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実はもうはっきりしない

とっくに忘れられ、忘れられたことすらも忘れられてしまったこの半端な新聞記事は、いずれにしても記憶の中間地帯のたもとに建つ標識なのだし、実際の新聞紙のスクラップではなかった。だからそれは長い年月の間に黄ばんだり破損したりすることもなしに、記憶の途切れるこの場所、夢の始まるこの位置に、いつまでもずっと建っている。そして白く、異様な炎によって照らされている。その炎は内部から補給されるエネルギーによって燃えさかる白い炎だった。その炎に吸い寄せられるようにして、大きな真っ白いホールの真ん中に立つ。強い薬品の匂いが鼻をつく、あの朝……。
 あの朝にまで一直線に落ちていく。
 大勢の人だかりがあった。通勤や通学で、人の出入りの激しい時間帯だった。シンナーのような、強い薬品の匂いがあたり一面に漂っていた。壁画のまわりがロープで半円形に囲われ、それ以上前には行けないらしい。ロープの向こうには制服の警官が二~三人、こちらを向いて、こちらを睨みつけるようにして立っている。駅の助役がハンド・スピーカーを手に、立ち止まらないで早くホームに行ってください、ここで立ち止まらないで歩いてくださいと真っ赤な顔をして叫んでいる。ロープの向こう側のその必死の声がよけいに人々の神経を昂らせ、どんどんと大きくふくれあがる人だかりは、ロープのこちら側で殺気だっていた。
 Which side are you on?
 そこは、この町に新しく完成した新駅の入口ホールだった。
 従来の幹線鉄道が山の縁を縫い、海岸線に沿って蛇行しつつ、小さな駅をひとつずつ拾いながら進んでいくのをあざ笑うかのように、もっと内陸部にコンクリートの白い高架を一直線に架け渡した、特急専用の新しい幹線が完成し、二種類あるその特急の遅い方の便をこの町に止まらせるための新駅が完成した。そこにたどり着くまでには、始まったのがいつのことだったか誰も思いだせない、気の遠くなるほど長い工事があった。
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